学会長あいさつ
日本環境教育学会の発足をめぐる議論が活発だった1980年代、環境教育は、公害や自然保護といった環境にかかわる諸問題を、明治政府発足以来続いてきた日本の教育の在り方の中で、あるいは新たな教育の在り方として問い、そのことによって「環境」という新たな価値観を私たちの社会の中に根付かせ、発展させていこう、同時に旧来の教育の在り方も見直していこうという市民有志の文化学習運動として出発しました。
当時、環境教育にかかわる実践を推進するさまざまな団体が生まれる中、とりわけ本学会には研究者コミュニティとしての役割が期待されてきました。
今日ふりかえってみて、この学会が発足当初めざした社会の姿はどれだけ実現しているでしょうか。
この40年の間に、日本には「環境基本法」と「環境省」ができ、「教育基本法」に環境にかかわる記述が追記され、「環境教育等促進法」も制定されました。「環境」はいまや私たちの社会に深く浸透し、根付いているようにも見えます。
しかし、その一方で、私たち人間が健全に発達、成長、主体形成していくために必要な生物多様性は十分に維持され、自然との接触の機会は確保されているでしょうか。
また主権者である市民一人ひとりが誰一人取り残されずに、健康で文化的な生活を送ることができ、そのために、あらゆる場所であらゆる機会にその人にとって必要な教育を受ける権利を保障されるという社会や公教育の仕組みは十分に実現、機能しているといえるでしょうか。日本国内は比較的平穏かもしれませんがそれに満足しているだけでよいのでしょうか。
そして環境教育研究は、この40年間、何を問い、何を成果としてきたのでしょうか。あるいはこれから何を問うべきなのでしょうか。
私たちは今、環境教育の存在意義という大きな問いの前にたっています。この問いを一緒に考え、議論していきましょう。
2024年6月
一般社団法人 日本環境教育学会
第4期会長 降旗信一