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学会長からのご挨拶

会長就任にあたって

阿部 治

本学会が設立されて20年。この間、気候変動など環境問題は深刻さを増し、国内外における環境教育を取り巻く状況も大きく変化してきました。90年代以降、「持続可能な開発」や「持続可能性」が一般化し、環境問題への対応に端を発した環境教育の概念も開発や平和、人権といった持続可能性に関連する多くの概念をも包含するようになってきました。いわゆるESDの登場です。この動きは、「国連ESDの10年」によって、国際的な運動へと発展しています。ESDは環境のみを対象としていた狭義の環境教育から、持続可能性にかかわるあらゆるものを統合した広義の環境教育に移行してきたといえます。我が国の総合的な学習の時間や持続可能な地域づくりにおける教育・学習(たとえば地元学など)はESDということができます。このように、今では、ESDまでをも環境教育の範囲に含めることが必要になってきました。さらに、地球環境問題の深刻化、グローバリゼーションの進展により、環境教育の国際協力・連携は避けて通ることができません。

一方、国内においても、環境教育への関心はかつてない程に高まってきており、文部科学省による『環境教育指導資料』の刊行、環境基本法での環境教育・学習の明記、総合的な学習の時間の導入、環境保全活動・環境教育推進法(略称)の制定、企業におけるCSRなど、本学会の創立時に比して、環境教育を取り巻く状況は著しく好転してきています。そして現在では、環境教育を専攻し、博士号を取得する若手研究者も誕生しています。このような進展はあったものの、我が国の環境教育の取組は、残念ながら、未だ十分ではありません。その原因は、環境を扱う教科や時間の問題、環境教育を担う人材や組織、予算の問題など、多岐にわたっています。

わが学会は、まさにこのようなニーズにこたえ、持続可能な社会の創造に寄与する環境教育の研究・普及に全力で取り組むことが求められています。環境教育の基礎・基本、指導法、評価や効果といった普遍的な課題へのニーズは、以前にも増して高まってきています。このような基礎研究の積み重ねの上に、持続可能な社会の実現に寄与する「環境教育学」の確立が求められているのです。そして関連の国内外の学会と連携しながら、持続可能な社会の創造者、牽引車としての環境教育、さらには本学会のプレゼンスを高めていくことが必要です。すなわち、「守り」ではなく「攻め」の視点に立った活動が求められているのです。そしてこれらの研究の成果の社会的還元、すなわち、環境教育推進に向けた具体的な政策提言にまで踏み込むことが必要です。

以上の視点を堅持しながら、本学会がこれまで進めてきた、研究プロジェクトや国内外の他学会との連携、支部活動などの推進をさらに発展させるとともに、新たに教材開発や教科書の作成、環境教育円卓会議、環境教育見本市、世界環境教育会議の日本誘致、大学間連携環境教育プログラム開発などを通じて、本学会設立時のモットーである、研究と実践の両輪に裏付けられた活動を推進していきたいと考えています。

(あべ おさむ/学会長・立教大学)

※上記は環境教育ニュースレター第86号(2009/7/15)p.1にも掲載されました。